前社長で父のT氏は資金繰りで苦労していた。
その点についてY氏は「親父が出店のために借金をして土地を買い、お金に苦労している姿を見て、自分はそのようになりたくないと思った」という。
そこで銀行からの借り入れに頼らず、無理のない経営を行いたいと思うようになったのである。
それを実現するためには、企業利益をきっちり管理する仕組みが必要であった。
Y氏は当時、次のように考えたという。
企業利益を管理するには事業単位できちっと利益を算出することが欠かせない。
小売業の場合、事業単位は店舗である。
主婦の店ムネカネでは、それまで本部が予算を策定し、それを店長が達成するという本部主導の予算管理体制であった。
それを各店長に自分で予算を作らせて、それを確実に達成させるという仕組みに変えたのである。
この試みを行うにあたって、もちろん反対もあった。
「店長がそこまでできるわけがなどというのである。
しかし、それを押し切って店舗主導の経営に転換したのである。
「店長はそれまで売上を上げることだけを考えていたんです。
ロスを出しても売上を上げていた。
それは決して健全ではない。
店長には損益計算書を意識した目標を掲げてもらいました」とここから店舗が変わり始める。
自ら作った予算を達成しようという意識が高まったのである。
Fでは、現在、課長(店長)までが業績と連動した年俸制になっている。
そこではできるだけ組織階層の下の者に自ら予算を組ませ、それを達成させるという仕組みになっている。
そして目標を達成すればそれが自分の報酬にはねかえる。
パートについても同様である。
パートも予算を達成すると、その利益が店舗レベルで分配されるようになっている。
ただ、パートの場合、その利益の分配で年収が300万円を超えると税制上、メリットがなくなってくる。
そこで有能なパートについては、時期的に忙しくない時期に休暇をとれるようにするという形で対応している。
いずれにしても、成果が報酬に連動するようになっているのである。
現在、Fでは同業他社と比べると給料も高く、週休2日制も実行されているという。
また、そのような能力主義を情報システムが側面からサポートしている。
Fは96年、全社にパソコンを装備、社内の電子メール環境を整えた。
そして翌年、グループウェアを導入した。
Fでは、各店舗の予算目標達成状況が本部だけでなく、各店でもパソコンの画面上で見られる。
また、同じ画面で他店舗の目標達成状況も見ることができるようになっている。
自店の目標達成率については店頭のPOSでリアルタイムに、他店のものは翌日に速報として分かる。
そして2日後には粗利益までが正確に把握できる。
さらに、Fでは、Sと同様の仮説検証型の発注を採用し能力主義に頼らないインセンティブ・システムを導入している。
これまで能力主義型報酬制度を導入しているケースを見てきたが、もちろん90年代に伸びた流通企業がすべて能力主義型の報酬制度を導入しているわけではない。
金銭的報酬を軸としない報酬制度を工夫する中で、顧客や店舗の知識を組織的に利用する方法を見出している企業もある。
その一つがSである。
Sの店舗はどれも同じ形をしている。
外装も内装もほとんど同じである。
20050坪(約825平方メートル)を標準の大きさに定め、内装や商品を陳列する什器、レジの位置や商品の配置にいたるまで、すべて規格で定められている。
店舗や什器を同じ規格で大量発注している。
Fでは、店舗の発注担当者がデジタル情報システムを通して本部から提供される情報を参考にしながら、自ら発注量を決定する方式を採用している。
例えば、日配、加工肉、野菜については、ノート型パソコンを使って売場でグラフや商品情報を見ながら発注できる。
つまり、店舗を起点とする発注方法をとっているのである。
ここで重要なのは、仮説検証型という店舗の担当者が主役となる発注方法が、能力主義型の報酬制度とリンクしているという点である。
発注担当者が自らの発注に責任を持ち、その成果ができるだけ自身にも還元される。
しかもそのプロセス自体が透明で、他店の担当者とよい意味でのライバル意識を持ったゲーム感覚を持てる仕組みになっているのである。
「マニュアルは、今も、毎月毎月書き直しているんですよ。
あれは生き物ですからね。
何も直言なかったら、みんなお蔵入りになっちゃう。
作業手順などに関しては各店舗から毎月改善提案を出してもらっています。
月に約千件の提案が集まりますが、そのうちの100件くらいを採用して、マニュアルを更新している。
すぐに差し替えるようにマニュアルはファイリング形式になってますから」(F氏)もちろんマニュアルの書き換えは業務の洗練化に貢献する。
店舗からの改善提案によって、単位当たりの費用を引き下げ、新規出店時の開設コストを引き下げるのである。
ちなみに99年現在、新店の建築費は一億円を切るようになっているという。
標準化されているのは、ハード面だけではない。
ソフト面でも店舗間で徹底した標準化が行われている。
例えば、店舗運営や作業手順などは標準化されており、それを記述したマニュアルは全9巻で内容は千項目以上に及ぶという。
店舗の運営方法をはじめとして、店舗開発や商品管理など、全社員の作業手順がそこに記してある。
どの掃除用具をどの棚にしまうか、どのような順序で、何分で掃除を行うかまで、きっちり決まっている。
とりわけここで重要なのは、Sではこのマニュアルが絶えず書き換えられている点である。
その点について社長のF氏は次のように述べている。
ユァルは更新され、その結果、現場での作業時間はさらに短縮され、低コスト経営に磨きがかかる。
しかし、ここで重要なのは、マニュアルに対して改善案を出すことが従業員のインセンティブになっている点である。
自らの業務手順が改善されるだけでなく、自分の提案した改善案が具体的にマニュアルになって全店に配布される。
もちろん、改善提案が採用された時、一件につき千円の報酬金が、その提案をした従業員に支給される。
しかし、Sのこの仕組みは金銭的報酬以上に当事者の意識や自分の提案が全社に採用される充実感などのインセンティブを、パートを含めた全従業員に与えているのである。
また、F氏は、能力主義を評価する価値観とは異なる価値観をSが持っていることを強調する。
それは、「優秀なものがその他のものの分まで補い、助け合いながら組織全体で成長を図っていこうとする」風土である。
「もしあなたに子供が2人、良い子と悪い子がいたとしたら、小遣いに差をつけますか?そうしたら2人は仲良くならないでしょう。
私は良い子が悪い子の面倒を見るのは当たり前だと思っています。
同じように、社員の給料には差がない方がよいと思っています。
社員もそれで納得しています。
賞与はある程度の差をつけますが、そんなに差があるわけではありません。
そうでなければおかしいと思っています」とF氏は語る。
このような組織風土も手伝って、Sでは、店舗の知恵が迅速に組織内に広まるようになっているのである。
成功していた。
以上のように組織革新は、店舗や顧客に関する知識を創造し、それらを活用することを可能にする。
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